「栄養素の不足と過剰」の解説

『病理学概論』より、栄養素の不足や過剰による病気・症状についての解説です。国試によく出る「夜盲症」「くる病」「壊血病」「ウィルソン病」などについて知ることができます。

「あはきスタディ」では、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の国家試験科目をやさしく解説しています。

栄養素とは?

私たちは食事をする(=栄養素を体に取り入れる)ことで、健康を維持しています。「タンパク質」「脂質」「炭水化物」三大栄養素といわれ、エネルギー源や体を作る素材となります。

体の機能を維持するうえで重要な「ビタミン」「ミネラル」を加えて五大栄養素ともいいます。これらは人が健康に生きていくために欠かせないものです。

栄養素は『病理学概論』の他に、『生理学』でも学びます。『生理学』では栄養素の働きを学ぶのに対し、『病理学概論』では栄養素の不足や過剰による病気・症状を学びます。

国試の出題傾向

『病理学概論』の「栄養素」に関する問題は、国試によく出題されます。

直近6年間の過去問を調べたところ、あん摩マッサージ指圧師の2024年、2022年、2021年、2019年に出題されていました。(はり師・きゅう師国試には出題されていませんでした。)

栄養素の中でも、特に「ビタミン」「ミネラル」の不足・過剰は、特徴的な症状があり出題されやすい傾向にあります。

「ビタミン」「ミネラル」について確認していきましょう。

ビタミン

ビタミンは、水溶性ビタミン脂溶性ビタミンの2つにわけられます。

水溶性ビタミン

に溶けやすい。体内に貯蔵されないため、過剰症はおきにくい。必要分以外は尿として排出される。

  • ビタミンC
  • ビタミンB群
脂溶性ビタミン

に溶けやすい。体内に貯蔵されるため、摂取しすぎると、肝臓などに蓄積して過剰症を起こす。

  1. ビタミンA
  2. ビタミンD
  3. ビタミンE
  4. ビタミンK

ビタミン不足の原因は、食事の摂取不足吸収や貯蓄の障害などです。

ビタミン過剰の原因は、サプリメントの大量摂取などです。

国試では主に、欠乏症について問われます。過剰症は問われることが少ないため、説明を割愛します。それでは、ビタミン不足による病気・症状を確認していきましょう。

脂溶性ビタミン(A・D・E・K)

ビタミンA

「目」「皮膚」「免疫機能」に関わる。

ビタミンA欠乏症

不足すると、夜盲症眼球乾燥症・視力の低下などの目に関わる症状がみられ、失明に至る場合もある。皮膚の乾燥や免疫力の低下もみられる。

夜盲症
暗い場所で目が見えにくくなる。ビタミンAは網膜にある視細胞の働きを助ける。不足すると光を感じ取ることができなくなる。

眼球乾燥症
目の表面が乾燥して劣化する。視力が低下することがある。

ビタミンD

カルシウムの働きを助ける。カルシウムは骨を強くするため、ビタミンDが不足すると「骨」に関わる症状がみられる。

ビタミンD欠乏症

くる病・骨軟化症
骨が弱くなる病気で、発症する時期によって病名がかわる。小児はくる病、成人は骨軟化症という。

小児では、骨の成長が妨げられ、低身長やO脚・X脚などの足の変形がみられる。成人では、骨の痛み・筋力低下・骨折などがみられる。

ビタミンE

不足することによって、運動機能を司る脊髄小脳に障害がおこる。

ビタミンE欠乏症

運動失調
反射協調運動の障害など運動失調がみられる。

ビタミンK

血液凝固に関わる。不足すると、出血しやすくなる。

ビタミンK欠乏症

出血傾向
主な症状は出血で、皮下出血(青あざ)、鼻や傷からの出血、内臓からの出血がある。

それでは、2019年の国試に出題された問題を確認してみましょう。

くる病に関連するのはどれか。

  1. ビタミン A
  2. ビタミン B1
  3. ビタミン D
  4. ビタミン E
『公益財団法人東洋療法研修試験財団』「第27回あん摩マッサージ指圧師国家試験問題」より

3. ビタミンDが正解です。

くる病は骨軟化症よりも、病名から症状が推測しづらいので、出題されやすい傾向にあります。

水溶性ビタミン(ビタミンB群・C)

ビタミンBは8種類あり、「ビタミンB1」「ビタミンB2」「ナイアシン」「ビタミンB6」「ビタミンB12」「パントテン酸」「ビオチン」「葉酸」をビタミンB群と総称します。1つだけでは効果は発揮しにくく、互いに作用し合っています。

ビタミンB群ビタミンCの内容は以下のとおりです。
(「パントテン酸」「ビオチン」は出題されないと思うので、説明は割愛します。)

ビタミンB1

不足すると、脚気ウェルニッケ・コルサコフ症候群といった深刻な病気になる場合がある。

ビタミンB1欠乏症

脚気
心臓機能の低下による足のむくみ、神経障害による足のしびれがみられる。

ウェルニッケ・コルサコフ症候群
脳に出血壊死がみられ、意識障害、眼球運動の異常、歩行中のふらつきを伴う。

ビタミンB2

皮膚の健康に関わるため、不足すると皮膚や粘膜に炎症が起こる。

ビタミンB2欠乏症

胃炎・舌炎・口角炎・皮膚炎
口角炎とは口の端が腫れて切れる症状。

ナイアシン

不足すると、ペラグラという皮膚炎にかかる。

ナイアシン欠乏症

ペラグラ
主な症状として、日焼けのような皮膚の炎症が、日光にあたると悪化する。他には、消化管にも影響を及ぼす。

ビタミンB6

皮膚の健康に関わるため、不足すると炎症がみられる。

ビタミンB6欠乏症

皮膚炎・口角炎・舌炎・多発ニューロパシー
多発ニューロパシーとは末梢神経障害で、運動や感覚の障害、自律神経障害がみられる。

ビタミンB12

赤血球を作るために必要な栄養素。不足すると貧血がみられる。葉酸と協力して働く。

ビタミンB12欠乏症

巨赤芽球性貧血
赤血球の成長過程で異常が起き、巨大な赤血球となる。正常な赤血球が不足し、貧血が起こる。

悪性貧血
ビタミンB12 を体内に吸収するためには胃から分泌される「内因子」が必要である。内因子が分泌されなくなり、ビタミンB12を体内に吸収できずに起こる貧血を「悪性貧血」という。昔は命に関わる貧血だったため、悪性という名前が残っている。

葉酸

ビタミンB12と協力して、赤血球を作る。胎児の神経系の発達に必要である。

葉酸欠乏症

巨赤芽球性貧血
ビタミンB12と葉酸は協力して働くため、同じ症状がみられる。

胎児の先天異常
妊婦中に不足すると、脊髄や脳の先天異常を引き起こす場合がある。

ビタミンC

「血管」「皮膚」などの組織形成に関わる。不足すると毛細血管がもろくなり、青あざができやすくなったり、歯茎から出血する。

ビタミンC欠乏症

壊血病
全身に出血がおこりやすくなる病気。皮下出血(青あざ)や歯ぐきからの出血がある。重度のビタミンC不足の場合に発症し、現代では稀な病気である。

余談ですが、壊血病は大航海時代に流行しました。生野菜やフルーツに多く含まれるビタミンCは、長い航海中に摂取することが難しく、多くの船乗りが亡くなったそうです。

それでは、2022年の国試に出題された問題を確認してみましょう。

ビタミンで、欠乏すると口内炎の原因となるのはどれか。

  1. ビタミン A
  2. ビタミン B2
  3. ビタミン C
  4. ビタミン D
『公益財団法人東洋療法研修試験財団』「第30回あん摩マッサージ指圧師国家試験問題」より

正解はわかりましたか?

正解は、2. ビタミンB2です。口内炎はビタミンB6欠乏でもみられます。


続いて、2021年の国試に出題された問題を確認してみましょう。

ビタミン K 欠乏が関与するのはどれか。

  1. 口内炎
  2. 骨軟化
  3. 血管脆弱
  4. 出血傾向
『公益財団法人東洋療法研修試験財団』「第29回あん摩マッサージ指圧師国家試験問題」より

正解は、4. 出血傾向です。

「口内炎」はビタミンB2ビタミンB6、「骨軟化」はビタミンD、「血管脆弱」はビタミンCです。ビタミンCは血管の形成に関わるため不足すると、血管がもろくなり出血します。

血管脆弱と出血傾向で迷うかもしれませんが、ビタミンKは血液凝固ができないことで出血します。ビタミンC欠乏症による出血との違いを覚えましょう。

ビタミンの解説は以上です。次に、ミネラルについて確認していきましょう。

ミネラル(無機塩類)

体内にある元素の大多数は酸素・尿素・水素・窒素の4種類です。それ以外の元素を「ミネラル」といいます。ミネラルは直訳すると「鉱物」という意味になります。

『病理学概論』の教科書には「無機塩類」と表現されています。ミネラルの不足や過剰によって、欠乏症や過剰症があらわれます。

栄養素として欠かせないミネラルは16種類あるといわれていますが、中でも重要な「ナトリウム」「カリウム」「鉄」「銅」「カルシウム」について確認していきましょう。

ナトリウム

不足した水分を体内に取り込む。塩分のとりすぎや脱水により、体内のナトリウム濃度が高まると、喉の渇きを感じる。

ナトリウム過剰

高血圧・浮腫
体内のナトリウム濃度を正常に戻すため、水分を体にとどめようとして起こる。

カリウム

体内の余分な水分を排出する。ナトリウムとは逆の性質を持ち、共に水分調節に関わる。心筋の収縮を助ける働きがある。

カリウム過剰

カリウム不足

不整脈・心停止
過剰・不足ともに心筋の機能を妨げ、重度になると不整脈や心停止を起こす。

血液の細胞である赤血球をつくる。不足する顔が青白くなったり、貧血によるめまい立ちくらみなどがみられる。

鉄不足

鉄欠乏性貧血
体内の鉄不足によっておこる貧血。偏った食事による摂取不足や、妊娠・授乳による需要の増加によっておこる。
※貧血には様々な種類があり、原因によって区別される。

鉄過剰

ヘモクロマトーシス
鉄が体内に過剰に溜まる病気。鉄が溜まることで、さまざまな臓器が損傷し、たとえば肝腫大、皮膚色素沈着、心筋障害などがみられる。

鉄が赤血球となるのを助ける。不足すると鉄の働きを阻害し、貧血がおこる。銅の過剰症であるウィルソン病国試によく出題されている。

銅過剰

ウィルソン病
銅が正常に排出できず、肝臓・脳・眼などに蓄積して、臓器を損傷する。虹彩(黒目)に緑がかった金色の輪(カイザーフライシャー輪)がみられることがある。遺伝性疾患である。

カルシウム

カルシウムは骨の材料になるだけではなく、筋肉が正常に収縮するのを助ける働きがあるため、不足すると筋肉の収縮に異常がみられる。

カルシウム不足

テタニー
筋肉のけいれん。テタニーは病名ではなく、症状をあらわす言葉。

カルシウム過剰

高カルシウム血症
血液中のカルシウム濃度が非常に高くなる病気。副甲状腺機能亢進症などによっておこる。副甲状腺からはカルシウムの吸収を促進するホルモンが分泌されている。

それでは、2024年の国試に出題された問題を確認してみましょう。

ウィルソン病で代謝異常を起こす物質はどれか。

  1. ナトリウム
  2. カルシウム
『公益財団法人東洋療法研修試験財団』「第32回あん摩マッサージ指圧師国家試験問題」より

正解は、2. 銅です。

解説は以上です。内容を整理して、確実に得点していきましょう。

記憶の定着にはアウトプットが重要です。要点を覚えたら、練習問題に挑戦してくださいね!

この記事は2024年4月時点の情報です。正確な情報を発信するように努めていますが、もし誤りがありましたら、コメントで教えてください。
栄養素の不足と過剰による病気・症状は多岐にわたります。このサイトでは、主に教科書に記載がある病気・症状を紹介しています。記事内容は執筆者が重要だと思うポイントをまとめたものです。国家試験の全ての出題範囲を網羅しているものではありませんので、ご了承ください。

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